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東京高等裁判所 平成10年(ネ)109号 判決 1999年3月31日

控訴人(原告)

海田長美

被控訴人

日産自動車株式会社

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一申立て

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人に対し、五一六万六〇〇〇円及びこれに対する平成元年一一月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

4  仮執行の宣言

二  被控訴人

本件控訴を棄却する。

第二事案の概要

事案の概要は、次のとおり付け加えるほか、原判決「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」に記載のとおり(ただし、原判決書一五頁三行目の「(6)」を「(5)」に改める。)であるから、これをここに引用する。

一  控訴人が当審において補足、敷衍した主張

本件事故は、<1>本件車両の操縦・安定性がその車両開発時に設計目標とした水準に到達していなかったこと、<2>その構成部品による初期品質欠陥が発生したこと、及び<3>操縦・安定性そのものが、外乱の一つである走行路面の摩擦係数が〇・四から〇・五と低く、その上横断勾配が平均二・七パーセントとやや多く、さらに大型トラック等による深さ約二センチメートルの滞水したわだち掘れが存在することにまったく対応しきれなかった結果として発生したものである。右<1>の事実は、被控訴人が本件事故後次々と設計変更をしていることから明らかである。

二  被控訴人の反論

本件事故車両と同型の車両で走行実験した結果によると〇・七一gの横向加速度が発生しても車両にスピンや蛇行は発生していない(原審検証の結果)から、これと同性能の本件車両に欠陥がなかったことは明らかである。また被控訴人が実施した設計変更が車両の欠陥と無関係であることはこれまでに述べたとおりである。

第三証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これをここに引用する。

第四当裁判所の判断

当裁判所も、控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり付け加えるほか、原判決「事実及び理由」中の「第三 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから、これをここに引用する。

一  原判決書二二頁二行目の「二車線」の次に「(本件事故当時の状況、以下において同じ。)」を加え、同三六頁八行目から九行目にかけての「ないというべきである。」を「ないから、フェールセーフ機構の誤作動をいう控訴人の主張は採用できない。なお、控訴人は、本件事故後、被控訴人が車両に搭載するスーパーハイキャスを本件車両に使用されている油圧式のものから電動式のものに変更したことをもって、スーパーハイキャスに暇疵があったことの根拠として主張するが、右変更が暇疵を理由とするものであることを認めるに足りる証拠はない。」に改め、同三七頁三行目冒頭から同一一行目末尾までを削る。

二  同三八頁七行目冒頭から同三九頁一行目の「また」までを次のとおり改める。「しかし、控訴人が主張する変位量は、横断勾配のある道路を時速八〇キロメートルで走行中に制動した場合の変位量を測定した実験結果(甲第三五号)から横断勾配二・七パーセント、路面の摩擦係数〇・四の場合の数値を取り出し、これに基づいて時速五〇キロメートルで走行していた本件車両について走行中に〇・四gの横向き加速度がかかるとした場合の変位量を導き出したものであるところ、甲第三五号証は通常の性能を備えた車両を対象として実験した結果を記載したものであると認められるから、控訴人が本件車両に生じたと主張する変位は、いわばどの車両についても発生するものであって本件車両に特有のものではないというべきであり、控訴人主張の変位が発生することをもって本件車両に走行安定性及び緊急回避性能の欠陥があるとすることはできない。しかも検証の結果によれば、本件車両は〇・七一gの横向き加速度が生じた場合であっても走行安定性を維持し得る程度の性能を有していたことが推認され、ほかに本件車両の右欠陥の存在を認めるに足りる具体的な証拠はない。したがって、この点の控訴人の主張は理由がない。なお」

三  同四〇頁五行目の「専ら原告のハンドル及びアクセルの操作だけで」を「右状態で控訴人がハンドルを左右に操作することにより容易に」に改め、同六行目の「ことになり」の次に「(甲第六号証によると、控訴人が行った実験結果でも本件車両が蛇行していた際の横向き加速度が約〇・四gに達していたことが確認されている。)」を加え、同七行目の「不適切な」を「本件道路の状況に照らして不適切な」に改め、同四一頁九行目冒頭から同一一行目末尾まで及び同四三頁一行目の「不適切な」をいずれも削る。

四  控訴人の当審における主張について

控訴人は、本件事故の原因の一つとして、本件車両の操縦・安定性がその車両開発時に設計目標とした水準に到達していなかったことを挙げ、右事実は被控訴人が本件事故後次々と設計変更をしていることから明らかであると主張する。しかし、自動車業界では販売促進のために大幅、小幅を問わず仕様及び設計の変更を行うことが通常であり、そのほかにも自動車の性能の向上、改善等の目的で設計変更されることもあるから、設計変更がされたからといってその事実から変更前の車両に欠陥があったことを推定できることにはならない。また車両は通常の走行状態において安全な走行をなし得る性能を有していれば足りるから、当初の設計目標に性能が達していなかったとか、他社の車両と比較して性能が劣るということがあったとしても、そのことを理由として当該車両に欠陥があるとすることはできない。したがって、車両の欠陥を主張する場合には、右のような設計目標との比較や他社の車両との性能の比較をするのではなく、当該車両が客観的に要求される性能を有していなかったことについて具体的に主張立証する必要があるといわなければならないが、本件においては、前記フェールセーフ機構の誤作動のほかには右観点に立った具体的な欠陥の主張はされていない。控訴人が主張する本件車両の走行安定性・緊急回避性能、旋回時の限界特性値、操縦・安定性といった性能上の欠陥はいずれも抽象的な指摘にすぎず、前記のとおり本件車両は〇・七一gの横向き加速度が生じた場合であっても走行安定性を維持し得る程度の性能を有しており、本件事故当時正常に走行できる性能を有していたことが窺われることからすれば、控訴人主張の性能上の欠陥があったと考えることは困難である。また仮に控訴人が主張する本件車両の欠陥がこれと同種の車両全体にわたる欠陥であるとすれば、そのような車両は全国的に多数販売されていることが推認される(弁論の全趣旨)から、本件と同種の事故例が全国的に多発しているはずであるが、これを認めるに足りる証拠はない。以上によると、本件車両に欠陥が存在したとする具体的な根拠はないといわざるを得ず、前記認定にかかる本件事故発生時の道路及び天候の状況、控訴人の発進及び加速の状況に照らすと、控訴人が道路状況に応じた運転の限度を超えて無謀な運転をしたことにより本件事故が発生したと認めるのが相当である。

なお、控訴人は、構成部品による初期品質に欠陥が発生したとも主張しているが、控訴人が被控訴人の立会要請を無視して本件車両を修理してしまったため双方立会による事故原因の究明がされていないこと、前記のとおり控訴人は本件事故発生後相当期間にわたって本件車両を走行させているが特段の異常は発生していないこと、控訴人主張の欠陥の存在を認めるに足りる具体的証拠はないことに照らすと控訴人主張の欠陥が存在したとすることには疑問があり、ほかに右欠陥の存在を認めるに足りる証拠はない。したがって、控訴人の右主張は採用できない。

第五結論

よって、本件控訴は理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条一項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 新村正人 生田瑞穂 宮岡章)

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